Appleがスマホで手軽に高画質写真や動画撮影ができることを叶え、カメラ業界の構図も変えてしまってからすでに10年以上。すでに他社のスマホも4K撮影は当たり前で特別感も無くなったわけですが、次に目を付けたのがオーディオ。今度は音楽再生の分野で再び業界の構図を変えようとしているようですよ。
この記事のもくじ
ロスレスオーディオを提供
Appleは2021年5月17日のプレスリリースで、6月からApple Musicにおいて「ロスレスオーディオ」の提供を行うと発表しました。すでにApple Musicのサブスクリプションを利用している人は特に追加で契約や料金は発生せず、設定アプリの「ミュージック」から「オーディオの質」のスイッチをONすることで利用が可能。
Apple Music
現在Apple Musicで採用されているのは最高256kbpsの「AAC」(Advanced Audio Coding)というファイル形式で、高音質を保ちながらも圧縮されたオーディオファイルなので、容量の限られたiPhoneのストレージをできる限り圧迫せず音楽を沢山楽しめるように工夫されてきました。これはストリーミング再生する場合にもキャリアのデータ容量を気にせず音楽が楽しめるのでそういった面でも重宝されてきました。
ただしどこまでも圧縮された音楽であり、聴感上では高音質でも仕組みとしては他の音に埋もれて聞こえなくなった音をカットしてデータ容量を小さくしており、100%アーティストが意図した通りの音楽かと言われれば違ってきます。なのでこういった音楽配信が始まった頃、アーティスト自身が反対運動を起こすなどと言うこともありました。
それから時代は進んで今となっては5Gなどのハイスピード回線が登場するような時代となり、iPhoneのストレージ容量も初代の最低容量が4GBだったのが今では最高512GBと100倍以上になりました。高音質のBluetoothイヤホンも登場し時代はよりピュアな音楽を求めるように。今なら1曲100MB程度の音楽をストリーミングしても普通でしょうし、より高音質で音楽再生ができるとなるとユーザーも理解を示すでしょう。
ロスレスオーディオ
無理の無い時代になったのでAppleもここぞとばかりにロスレスオーディを発表してきました。ロスレスという言葉のニュアンスから圧縮しないそのままの音楽ファイルという印象を受けますがそれは不正解。圧縮していない音楽ファイルはPCMと言われているもので、「リニアPCM形式」なんて言われている場合は無圧縮で音楽が記録されているものと考えて良いです。で、今回のオーディオ形式は「ロスレス」なので、圧縮は行うもののデータが欠損しないようにオリジナルの音質を保ったままに記録された音声ファイル形式ということになります。
CD以上の音質も
音質は16bit/44.1kHzが最低ラインでこれはCDと同じ音質。ちなみに人間の耳は20kHz程度の音までしか聞こえないのでCDの音質でさえ半分程度しか綺麗に聞き取れていません。CDフォーマットと同じ音質なので過去の音源はほとんどこの音質で提供されるのではないでしょうか。最大は24bit/48kHzで、これから登場してくる音楽はあえてこの規格にあわせて高音質音源として制作されることが主流となるかもしれません。そうなるとCDよりも音質が良くなるので、今度はデジカメが消えていったようにCDプレイヤーやCDが完全に姿を消すキッカケにもなり得るかも。
ハイレゾ音源も登場
他にもオーディオファン向けとして最大24bit/192kHzのハイレゾリューションロスレスの提供も行われるようで、SONYがすでに数年前からハイレゾ音源の販売を行ってきたものの一般的と言われるほどは普及しておらず、これを機に一気にハイレゾブームが到来するかもしれません。
空間オーディオの提供
同時に発表されたのが「ドルビーアトモス」による空間オーディオの提供です。これは意図して制作する必要があるので基本は新作の音楽が対応していくようになるはずですが、対応イヤホンなどを使って再生することにより、今までは右と左だった音像や定位感が立体的に広がり、前後/左右/上下と360°で音が駆け巡る映画館のような体験ができるようになります。これにより、ボーカルは前、ドラムとベースは後ろ、ギターは右上、シンセの音が360°駆け巡るなんて表現も可能で、今まで以上に音楽を楽しめるようになります。
なお現在対応しているハードはAirPodsのシリーズ及びBeatsのシリーズで通常のイヤホンでは多少の臨場感は楽しめるかもしれませんが本来の臨場感は限られたハードでのみということになります。
すでに7500万曲以上をラインナップするApple Music。そのサブスクの王者がさらに新しいサービスを開始するのですから必ず業界としても変化が起こるでしょう。今後は高音質ヘッドフォンとかがバカ売れし、ファイル容量の大きなハイレゾ音源も大量にリリースされていく時代になるかもしれませんね。