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完全新作「Osmo Pocket 3」誕生
DJI(中国広東省深セン)が手掛けるジンバルカメラ「Osmo Pocket」シリーズの新商品「Osmo Pocket 3」が満を持して2023年10月25日に発売されました。
Osmo Pocketシリーズでありながらも、過去2製品から大幅にブラッシュアップされ、”完全新作”と言っても決して大げさではない進化を遂げて帰ってきました。約5年前に発売された初代機と比較しながら、進化ぶりを皆さんにお伝えしていきます。なお撮影された画像比較についてはすでに数多くのレビューサイトが取り扱っているので、ここでは「外観」や「新機能」、「性能アップ」された部分について取り扱います。
Osmo Pocketとは?
比較を始める前にOsmo Pocketについて少しだけ触れておきます。
「Osmo Pocket」初代モデルは2018年12月15日に発売され、DJI製品の中でとても人気のある小型カメラのシリーズです。Osmo Pocketといえば、長細い本体の上にょきっと伸びたカメラレンズで、3軸ジンバルにより本体の傾きを高性能に感知し、カメラレンズを水平に保ち続けるという、それまでに無かった斬新な発想の小型カメラで、とにかく発売当初はとても話題になりました。
ちなみに「3軸ジンバル」というのは、カメラの揺れや傾きを、センサーやモーターを用いて、上下・左右・回転による3軸で制御し、ブレや揺れを軽減する装置のこと。
DJI Pocket 2
初代機から2年後の2020年10月21日には「DJI Pocket 2」が発売。いったん製品名から「Osmo」の名前が外れましたが、れっきとしたOsmo Pocketシリーズです。
数mmだけ本体は大きくなり重量も1gだけ増加。見た目はほとんど同じながらCMOSセンサーは大きくなり、画素数は12メガピクセルから64メガピクセルへと大きく増加。HDR動画の撮影が可能になったり、8倍デジタルズームが搭載され、マイク数が2つから4つに増加し高音質録画ができるなど、時代のニーズに合わせつつもユーザーのニーズを反映した製品でした。本体の見た目は初代モデルとほぼ同じのため、Osmo Pocket 2のカメラレンズ周りには赤い縁取りが施されています。また2021年7月8日には「Exclusive Combo」専用商品として新色カラーとして「サンセットホワイト」のモデルも発売されています。
なお初代モデルはすでに生産終了していますが、Osmo Pocket 2は3と共に併売されるようで、高機能はそこまで望まないものの、3軸ジンバルカメラを活かした撮影を、手軽にお手頃価格で実現したいユーザーへの選択肢として残しているようです。
では、ここから初代モデルと最新モデルを比較していきます。
本体はより大きく
初代モデルとOsmo Pocket 3を並べてみると、本体がかなり大きくなったことが分かります。
Osmo Pocket 3の本体サイズは139.7×42.2×33.5 mm(長さ×幅×奥行き)。
初代モデルよりも、高さは約14.6%、幅は約14.36%増加。
奥行きが一番大きく変更されて、約17.13%増加。
過去2製品はスマホ接続を意識したサイズに
過去2製品はスマートフォンとの接続を重視したコンパクトなデザインでした。スマートフォンのサイズに合わせ、目立たないスマートな外観を目指していたと考えられます。当時はまだスマートフォン撮影が主流で、身近な撮影をするための大きなカメラは珍しい存在でした。そのため、DJIは小型で持ち運びやすいデザインを採用したのではと考えられます。
最大進化!2インチスクリーン
Osmo Pocket 3が発表された時、一番注目されたのは「2インチ回転式タッチスクリーン」でしょう。
このスクリーンを見た誰もがOsmo Pocket 3が単なる新製品ではなく、完全に時代に合わせ生まれ変わったモデルとして認識したのではないでしょうか。そして初代モデルのユーザーの心を掴み、2機種目は見送ったものの、「買い替えたい」という動機を十分に引き出すだけのポテンシャルを持ち得ています。
小さすぎたスクリーン
過去2機種に搭載されていたスクリーンサイズは1.08インチ。両機種ともにスマホ接続することが大前提だったので、スクリーンはあくまで補助的なものとして備えられたのでしょう。極端言えば、ないよりかは小さくてもある方がマシ、といった感じでしょう。
実際この小さなスクリーンは、本体のみを持ち歩いた撮影で活躍するかといえば無理のある大きさで、どちらかというと、設定を行うためのボタン代わりのタッチスクリーンという立ち位置でした。
Osmo Pocket 3のスクリーンサイズは2インチで、数字的には約1インチ程度の差ですが、写真で比較すればお分かりの通り、かなり見やすくなっていることが分かります。
過去2機種のスクリーンは「小さい」という以外にも弱点があり、それが正方形のスクリーンだったために、画像の左右が切り取られて表示されてしまうというものでした。
Osmo Pocket 3では標準では縦型スクリーンとして収まっているのですが、スクリーンを時計回りにクルっと回転させて使用するようになっています。
このスクリーンは電源代わりにもなっていて、回転させるとすぐに電源が立ち上がり撮影を開始することができますし、回転と同時に撮影を開始する設定にすることも可能です。
縦型動画の撮影にも対応
この回転するスクリーンは、収まりが良いという理由だけで設計されたわけではなく、2020年頃から流行りだした「縦型動画」を十分に意識したものです。
画面を縦に回転させると2秒間のカウントダウンがあり、そのまま放置すると電源が切れるのですが、画面をタッチすることで縦型動画の撮影が可能となります。ただし、この縦型動画は、横画面撮影の左右を切り取った擬似的な撮影であり、スマホのように縦や横に持ち替えて撮影するのと異なるものになります。
1インチCMOSセンサー搭載
「CMOS(シーモス)センサー」は人間の体で例えると目の部分となります。カメラのレンズを通して光を捉え、デジタル信号に変換するパーツで、スマートフォンなどにも搭載されています。
初代モデルから順に、1/2.3インチ▶1/1.7インチと少しずつセンサーサイズが大きくなり、Osmo Pocket 3ではついに1インチのCMOSセンサーが搭載されることとなりました。センサーが巨大化すると、より多くの光を捉えることができ、明るくクリアな撮影が可能になります。また、画像のノイズも少なくなる傾向にあります。
先日発売されたiPhoneの最新機種「iPhone 15 Pro Max」では、公式発表はされていないものの、1/1.28 インチのCMOSセンサーが内蔵されていると言われており、それよりもさらに大きなセンサーがOsmo Pocket 3には搭載されているということになります。
CMOSセンサーは本体に内蔵されているため確認することはできませんが、カメラレンズを見るだけでもその大きさの違いが十分に分かります。
暗所に強く
CMOSセンサーが大きくなり、光を捉える面積もより広がったため、過去2機種と比較し、格段に暗所での撮影が向上しました。これはどのレビューサイトでも絶賛されており、実際目で見て暗いと感じる部分でも、Osmo Pocket 3のスクリーンでは鮮明に確認できるなど、過去2機種を使用したユーザーなら尚更実感できる部分でもあります。
ちなみに私も初代ユーザーでもあるのですが、やはりこの暗所撮影の画質について驚き、購入への動機と繋がりました。
自然なボケも
スマホでもポートレートモードによる背景のボケは、魅力的な写真の一つです。スマホに搭載されているボケは画像処理によって後付けされたエフェクトですが、Osmo Pocket 3のセンサーサイズが大きくなり、ピントが合っている範囲をより細かくコントロールできるようになったおかげで、背景をぼかして被写体を目立たせる撮影が容易に行えるようになりました。これも過去2機種にはなかった大きな特徴の一つです。
ついにスマホいらずに
初代モデルが発売された時期は「iPhone XS」シリーズ、「iPhone XR」が最新機種の時代です。ちょうど前年が「iPhone X」の発売年で、ホームボタンが廃止され、指紋認証から顔認証へと変更された時期でもあり、これからスマホが大きく進化していくぞというスタート位置位の年でした。
そういった背景からも、スマホの大画面を用いて撮影ができることや、スマホ以上に高画質で安定した撮影ができるなど、Osmo Pocketはスマホ撮影の補いを十分に担えるカメラでしたし、当時からするとスマホに直接接続してカメラ部が自在に駆動するというトリッキーなデバイスは非常に好奇心をくすぐるものでした。
手軽に撮って出す時代に
時代は変わり、現代ではそれこそ小学生の子供が気軽にスマホで撮影し、アプリで加工を行い、セットアップロードするというような時代となりました。そうなってくるとかつてのように専用アダプターを用いてスマホに接続し撮影をするというOsmo Pocketのスタイルは、ある意味で「手数を増やしてしまう」という面倒くささを生み出すこととなります。
実際あの専用アダプターを用いてのスマホとの接続というのは、奇抜なアイデアであるものの決してスマートなものではありませんでした。
特に日本においては、2021年に「LINEリサーチ」が実施した調査において、iPhoneでのスマホカバー装着率は90.7%もあったらしく、カバーを装着したままだとアダプターがしっかり接続できず使えないという不都合もありました。
実際、私も初期の頃はカバーから外して使っていたのですが、後々面倒くさくなり、最終的にはOsmo Pocketを使わなくなり眠らせてしまうという状況でした。
Osmo Pocket 3になってからはスタンドアロンでの使用が見込まれている作りなので、例えばスマホは気軽な撮影、Osmo Pocket 3は暗所やしっかりとした撮影と役割分担で使用しています。
ついにWi-Fi内蔵に
過去2機種においてもWi-FiやBluetoothを用いた通信ができるよう、ワイヤレスモジュールなるものがオプションとして販売されていました。DJI Pocket 2でも「Do-It-Allハンドル」というのがそれに当たります。
ただ、ユーザーからは別売りパーツではなくて、そもそも本体に内蔵してほしいという声も多く、誰しもがワイヤレスでコントロールできることを望んでいたわけです。
Osmo Pocket 3ではついにワイヤレス機能が内蔵され、撮影中の画面のみならず、撮影したデータをスマホに送信することも可能で、有線接続されていた状態そのままがワイヤレスでコントロール可能になったわけです。
とはいうものの、Osmo Pocket 3は単体でも十分に操作できるように設計されているので、このワイヤレス機能は撮影した映像をスマホに転送するという目的が一番多くなりそうです。
ジョイスティック標準搭載
Osmoシリーズは一貫して「ボタン2つのシンプル設計」を貫いています。これは即座に撮影をする時に迷わず録画ボタンが押せるというメリットがあるもの、ボタン1つの押し分けで別機能が実行されるなど、慣れを必要とするデメリットもあります。
初代モデルではボタンよりも標準装備して欲しいものがありました。それが、カメラの方向を操作するジョイスティックです。オプションとして「コントローラーホイール」というものが発売されていたのですが、8,000円以上もするという代物。しかもこれはホイールなので操作方向は上下のみ、左右にも対応していますが、上下または左右それぞれをスイッチで変更する必要があります。ちなみにオプションを使わずに本体のみでカメラ向きをコントロールすることは可能ですが、可能なのは上下のみで、なおかつ小さなスクリーンの右端のスライダーを動かすという非常に操作性の悪いものでした。
DJI Pocket 2では、「ミニ操作スティック」という着脱式のジョイスティックが標準で同梱され快適性は向上されています。
5Dジョイスティック搭載
Osmo Pocket 3は今までの「使いにくい」が多く改善されています。その改善の中でも特に大きいのが「5Dジョイスティック」の標準搭載でしょう。なかなか大げさなネーミングですが、上下左右のジョイスティック操作に加え、押し込むという操作が可能なスティックで、ジョイスティックとボタンが1つにまとまったおかげで、見た目はそのまま、機能性は向上という非常に優秀なスティックになっています。
このスティックはカメラ操作が基本ですが、画面右に表示されているデジタルズームの数字をタップすることで、デジタルズームの拡大・縮小にも使用することができるなど、各機能で柔軟に使用することができます。
同梱ハンドルで三脚対応
カメラである以上、三脚に固定し撮影をしたいというのは自然な思いです。しかし初代モデルには三脚用のネジ穴もなければ、同梱で三脚用アダプターが付属するというようなこともありませんでした。次のDJI Pocket 2では、もともと装着されているベースを外し三脚マウントを装着する仕様になっており、融通は効くものの不便さはあります。
Osmo Pocket 3では「ハンドル」というパーツが同梱されるようになりました。
これは本体の下にカチッと取り付けるタイプのアダプターで、USBポートが犠牲になってしまうため、USBポートと三脚用ネジ穴が拡張されるようになり、さらに手持ち撮影がやりやすいよう、本体の長さを延長するという目的も兼ね備えています。
なぜネジ穴を標準搭載しない?
ここまでするなら、そもそもネジ穴を標準搭載した方が良いのではと考えがちですが、ネジ穴の分だけバッテリーの大きさが犠牲になるので、それなりに本体の長さが伸びてしまうというのが一番の原因でしょうか。そもそもこのシリーズは持ち歩くということが大前提であり、本体の大きさもそれを想定して設計がされているでしょう。また今回の着脱式アダプターであれば、三脚への固定状態からワンタッチで本体を取り外すことができるのは大きな利点です。
ただもしかすると、本体に穴を開けたくないというDJIの美学があるのかもしれません。
これも進化?カメラの収納方向
ものすごく細かいことなんですが、電源オフ時のカメラの向きが改善されています。
上の写真を見ていただければわかるのですが、右の初代モデルでは電源オフ時カメラレンズが外側を向くように設計されています。対してOsmo Pocket 3ではレンズ方向が反対側を向き、レンズを保護する形で収納されます。
これ実は設計上しょうがないことなのですが、初代モデルでは本体とのバランスを保つため、レンズユニットと固定パーツの距離をギリギリまで詰めています。そのため内側に収納しようとすると、レンズ部分が固定パーツに接触してしまい、回転することができないのです。
Osmo Pocket 3では全体的に大きくなったため、カメラ駆動パーツも余裕ができたようで、今回のような設計にできたようです。
使い勝手の良い収納ケース
初代モデルの収納ケースは、辞書の箱のように本体を差し込むタイプのケースでした。このケースあまり評判が良くなかったようで、発売当初から本体に傷がつきそうという声も聞かれました。カメラ駆動部分をがっちり固定するための最適なケースだったかもしれませんが、頻繁に出し入れをするということを考えると、やはり使い勝手というのは一番大切になってきます。
Osmo Pocket 3の同梱ケースは驚くほどシンプルです。
スクリーン側を下にして上から差し込むというだけの簡単構造。しっかりはまるのでカバンの中で勝手にケースが外れていたということはほぼなさそうです。
このケースはフィルター類やワイヤレスマイクも装着可能で、下部は飛び出る構造になっているので、充電しながらや、ハンドルを装着したままの収納が可能。充電中の画面表示を見たい場合は、カメラの収納方向は右向きと一定ではあるものの、本体のみ裏返して収納することも可能です。
その他の変更点
ここまでは重要な部分の変更点をお伝えしてきましたが、それ以外の部分での変更点をお伝えしていきます。
10-bit HLG動画撮影
初代モデルではHDR動画撮影さえもなく、DJI Pocket 2から導入されたのですが、Osmo Pocket 3ではさらに上を行く「10-bit HLG動画撮影に対応したHDR動画」の撮影が可能。なかなか素人には難しい技術ですか、10-bitカラーだと、なんと10億以上の色を表現できてしまうというものすごい技術です。
画素数が減少?
静止画撮影においての画素数は、初代モデルは12MP、DJI Pocket 2が64MP、Osmo Pocket 3が9.4MPと大幅な減少となっています。最新機種が出るたびに画素数が増えていく、もしくは全機種と同等というのが当たり前ですが、ここに来てなぜ大幅な減少となったのでしょうか。またそれなのに実質画質は上がってるというのも不思議です。
私もここの部分に関しては思いっきり詳しいわけではないのですが、ざっくり説明すると、Osmo Pocket 3は過去1番の大きさのCMOSセンサーを搭載しています。そのセンサーの上に画素となる光を受け取る部分が並んでいるのですが、過去2機種よりも画素数は少なくなった反面、CMOSセンサーは巨大化しており、そのセンサーに少なくなった数の画素を均等に並べていくと、過去2機種よりも1つの画素サイズが大きくなるわけです。つまり画素が大きくなった分、より多くの光を取り入れることが可能となり、全体的なディテールが向上し、ノイズも少なくなるというメリットがあります。
違った言い方をすると、過去2機種は小さなCMOSセンサーにより多くの画素を詰め込むため、一つ一つの画素が小さくなり、取り入れる光の量も少なくなるため、ノイズが出やすくなるなどの問題が生じるわけです。
Amazonで格安で販売されているようなカメラが、iPhoneと同等程度の画素数を搭載しておきながら、暗くてノイズだらけの撮影しかできないわけは、画素数は多くてもそもそもの受け皿となるCMOSセンサーが小さいため、十分な量の光を取り込めていないということも原因の一つです。
過去のSDカードが使えない?
本体性能が上がったため、SDカード書き込みにスピードに対する要求も上がっています。
過去2機種においてはmicro SDカードが、「スピードクラス1 」というスペックを持っていれば問題なく撮影が可能でしたが、Osmo Pocket 3は「スピードクラス3」という、より高速転送速度を持っているmicro SDカードの使用が必須となっています。
ちなみに初代モデルで使っていたスピードクラス1のマイクロSDカードを使用したところ、スピードが低速であるということの警告が表示されましたが、最高画質の動画でも問題なく撮影をすることができました。ただし、非推奨の使用方法のため不具合が起こる可能性も多く、少なくとも大切な録画においては、必ず推奨されているmicro SDカードを使用しましょう。
動作時間が向上
スクリーンが大型化し、当然過去2機種より多くの電力を必要とすることとなったので、バッテリー容量が875 mAhから1300 mAhへと大きく向上しています。
過去の2機種が140分なのに対して、166分の動作時間を確保しています。また高出力の充電器を使うことによって、80%までを16分、100%まで32分間で高速充電が可能です。
最後のまとめ
初代モデルのお値段が4万4,900円、2代目が4万9,500円とわずかな値上がりだったのですが、Osmo Pocket 3は7万4,800円と比較的高価な価格設定となっています。これはもちろん各パーツの価格高騰も影響しているはずですが、円高などの提供も関係なく、あくまで良いものを作ろうとした結果の価格だそうです。
実際手に取ってみると初代モデルからの価格差はそれほど痛手ではなく、これぐらいの性能であれば十分に納得のできる製品として仕上がっています。
今後もまだまだこのシリーズは、数年おきに新しい機能を搭載したモデルが出てくることが予想されますが、ある意味でこれは一つの完成形と言っても過言ではない素晴らしいカメラです。